
「佐々木!佐々木!」とSNSでコールが賑わっていたので、熱い青春映画っぽい!楽しそう!と早速観に行ったのですが、SNSのコメントされた方々のように、声高らかに佐々木コールを唱えられない自分がいます。
それは決して映画がつまらなかったいうわけじゃなくて、『佐々木』の一部分が、自分自身でもあると感じたから。
多分、誰しも『佐々木』のような人は学年に1人はいて、『佐々木』との距離によって感想が変わってくると思います。エンターテイメントとして楽しむというより、自分の学生時代を振り返ってしまう映画です。
『佐々木、イン、マイマイン』を観て1週間。気づけば佐々木のことを思い出して、考えてる自分がいます。
なんだか静かに心の内に留めていられない、そんな熱量のある映画。考察でもなんでもなく、私が観ながら過去を思い出したことなどを踏まえて、感想を書いてみようと思います。
佐々木、イン、マイマイン
上映時間:119分
公開:2020年
監督:内山拓也
脚本:内山拓也
細川岳
撮影:四宮 秀俊
キャスト:
石井 悠二 役(藤原季節)
佐々木 役(細川岳)
ユキ 役(萩原みのり)
多田 役(遊屋慎太郎)
木村 役(森優作)
他
映画『佐々木、イン、マイマイン』あらすじ
俳優を夢見て上京したものの、工場のバイトで生活する悠二(藤原季節)。高校の同級生の多田(遊屋慎太郎)と久しぶりに飲みに行き、2人の高校時代の友人で、絶大的なインパクトを残していた『佐々木』のことを思い出すのだった。
映画『佐々木、イン、マイマイン』キャスト・登場人物
石井 悠二(藤原季節)
俳優を志す27歳。思い描いた役に恵まれず、バイトで生活する日々。同棲する彼女とはすでに別れており、まだ思いを胸に秘めているが、引き止められずにいる。うだつが上がらない日々に、ふと俳優を目指し始めた高校時代の友人、『佐々木』のことを思い出す。
2020年1月公開の『his』で、渚くんを演じていた藤原季節さんが、モヤモヤでいっぱいな悠二を演じていました。
久しぶりに会った同級生の多田に、今の生活で大丈夫なのかと言われれば逆ギレし、彼女のことをまだ好きなのに何も言えず、全てを後回しにしてしまう男。ウジウジすぎて、正直私は全然好きじゃないんですが(笑)、こういう人、いるよね。。。というキャラクター設定がリアルすぎて悶々としました。笑
佐々木(細川岳)
クラスの男子から『佐々木!佐々木!』と佐々木コールが響けば、どこでも服を脱ぎ捨てて大騒ぎ。男子たちのムードメーカーでありつつ、女子たちからはドン引きされていた。
悠二と多田の思い出では、”ヤバイやつ”でしかない佐々木。でも、回想に入ると佐々木の印象はかなり違いました。佐々木についてはネタバレ感想に書いていきます。
演じているのは細川岳さん。独特な声の高さが、めちゃくちゃまともなことを言ってるのに絵空事のようで、佐々木のキャラクターにぴったりでした。
ユキ(萩原みのり)
悠二の元カノ。別れを切り出したのにしばらく同棲を続けている。
37セカンズでSAYAKAちゃんを演じていた萩原みのりさん。悪気があるのかないのか、人の好意を搾取する役をやらせたら右に出るものはいないかもしれない。。。笑 実際、男友達で振られたのに彼女が出て行かない人、何人かいたので観ていてしんどかったな。笑 萩原みのりさんは今泉力哉監督の新作にも出るみたいなので、そちらはいい役だと良いな。楽しみにしてます!
その他
キャストについて全然調べてなかったので、King Gnuの井口理さんが出てきたのはかなりサプライズでした。笑 内山拓也監督は、King Gnuのミュージックビデオなども手がけられてるんですね。
ここからは『佐々木、イン、マイマイン』のネタバレを含んでおりますので、まだ鑑賞されてない方はご注意ください。
映画『佐々木、イン、マイマイン』ネタバレあり感想
内山拓也監督の作品を初めて拝見したのですが、公式サイトによるとスタイリストから映像に進まれた方なんですね。服装やインテリア、調味料などのキッチン用品のチョイスまで、どんな生活している人間なのか、言葉で説明しなくてもわかるくらい、登場人物の見せ方がとにかくリアルでした。
悠二のキッチンは、昔から日本の一般家庭にある調味料が溢れて、鍋やらフライパンやら生活感丸出し。絶対彼女のキッチンじゃない。同棲しようとして始めたんじゃなくて、彼女が転がり込んできたんだろうなぁ。そう思いました。別れてからもズルズル一緒に生活をしていて、20代後半の男の子なら、コンビニ弁当で済ませてしまいそうなもんだけど、それもままならない経済状況なんだろう。そう思わせるキッチンでした。
キャラクターの設定はしっかりしてるのに、台詞ではそんなに説明しないせいか、自然と自分の身近な人物とキャラクターたちを重ねて見てしまっていました。こういうのって洋画では生活様式が違うからやっぱり感じられなくて、邦画だからこその良さ。リアルな日本の生活がありました。
回想シーンになってようやく登場する佐々木。どんな破天荒なやばいやつが登場するかと思いきや、佐々木コールをされている時意外は、まともというか、ロマンチストというか。冗談として取っているのは周りだけで、佐々木自身は常に真面目に話している、周りの人間から見た『佐々木』とのギャップを感じました。
佐々木の家は散らかり放題。床に穴が空き、ゴミだらけ。お母さんがいないらしく、父もあまり帰ってこない。ということは友人たちも知っているけど、ちゃんと事情を聞きもせず、佐々木の家を溜まり場にしてる。そんな明らかに裕福ではない佐々木に対して、本当にカップラーメンが生命線だなんて思いもしない多田は、平気で『小腹空いたからラーメン食わせろ!』なんて言っちゃう。佐々木がとっておきのラーメンを作ると言って、丁寧に調味料を振りかけてるシーン、私は心が痛くてたまりませんでした。
でも、多田も悪気はない。世の中のみんなそうで、自分の生きている感覚が当たり前だって思ってしまうし、ちょっと気になることがあっても楽しい学生時代を過ごすのに、目をつぶってしまう。私もかつては多田のようだったし、今だって自分の知らない生活に対して、多田のような無神経なことをしてるかもしれない。そう改めて考えさせられるシーンでした。
そもそも『佐々木コール』というのが、佐々木自身も気づかぬ内に、『ヤバイ佐々木』というキャラクターを作り上げてしまったんだろうな。
まぁ私は女なので全裸になったりはしないけど(笑)、私も学生時代、とにかく全力で笑いを取りに行くムードメーカー的な存在だったから、心の底で思ってることはどんどん言えなくなってた。本当は家で漫画を描いてたけど、派手な友達にバレたらなんて言われるかわからないから次第にやめてしまったし、正直、小さい頃からなんの為に生きなきゃいけないんだろうって思ってるし…。でも、私の学校は結構いじめがすごくて、暗い人はハブかれるのが当たり前だったから、みんなの前ではとにかく明るい奴でいた。でも、その明るい自分が全くの偽物か、というとそうではなくて、バカ明るいのも自分なんだけど、内側の自分を出す場所は無くなってた。
佐々木もみんなで盛り上がるのは本当に楽しかったんだと思う。それも本当の佐々木だけど、家庭の事情を誰にも話せず、多分、本当は絵を描きたかったのに、金銭的な問題で自分の夢を語ることもできず、悠二が俳優になることを願い、応援してるなんて、切なすぎるじゃぁないですか…。
後半で出てくる苗村とのカラオケでの出会いは、佐々木の動揺っぷりが可愛かった。学校で全裸にばっかりなるもんだから、当然女子たちからは嫌われていて、女の子と接する機会がなかったんだろうな。笑 苗村は振り返って待っていてくれてるのに、気づきもしない佐々木。意外と女子はそういう不器用さに弱いもんだよ。うんうん。
あの後、どうやって二人が再開したのか、どんな仲だったのかはわからないけど、佐々木にとっての大切な人であって欲しい。
後半は、『佐々木』が、悠二の人生を進めるキーのようになっていて、じゃあ誰が一体佐々木を救ってくれるんだ!!!!!!と私は憤慨してしまったので、もしかしたら無神経に読んでる人を傷つけるかもしれないので悠二については書くのはやめておこう。笑
とはいえ、車の中で、悠二があの時佐々木は…と気づくのに対して、多田が口を紡ぐシーン。本当は見えてるのに、見えてないふりをしている人って沢山いて、その人たちは上手く世の中を生きてる。あぁ…なんとも世知辛い…。
クラスのマドンナに恋をして、着実にアプローチして、密かに消しゴムをシェアしているという大変、大変エモーいシーンを見せつけてくれた木村くんが、自分の幸せを育んでいたことはとても良かったなぁ。なんだよあの消しゴム…羨ましすぎる!笑
ラストは幻想なのか、個人的には盛り上がれなかったけど、どうなんだろう。他の人の解釈を聞いてみたいラストだった。
一言で良いとか悪いとかではなく、『人間そのもの』を見せてくれる熱い映画でした!内山拓也監督が今後どんな作品を作られるのか、今から楽しみで仕方ありません!絶対観に行きたいと思います!